データドリブン経営 ~データを用いて意思決定をしよう~

中小企業診断士 児玉 仁勝

川崎診断士会のコラムには2回目の登場となります。児玉です。
前回の記事はコチラ→「お客様を呼び込もう~顧客導線の作り方~」

中小企業のご支援をしているとご苦労されている企業さまに出会います。そうした企業の経営者様の中にはご自身の経営能力に疑問を感じられている方も少なくありません。過去の経営判断の失敗から「自分は経営者に向いていない」と語られる方もいます。しかし筆者は思います。10年20年と事業を続けてこられた方が経営者に向いていないわけがないと。ではなぜ間違った経営判断が行なわれてしまったのか。それについて記事を書きたいと思います。

なお、本記事はデータドリブン経営というタイトルを持ちますが、内容には筆者の個人的な見解も入っています。ですので、中には学ばれてきた内容と異なると感じられる部分があると思いますが予めご了承ください。

1.本記事の構成

構成はまず、昨今話題となっている「デジタル化」が何を目指しているのかについて説明し、本記事のテーマであるデータドリブンの位置づけを明らかにします。次に現代における意思決定の問題点について述べ、データドリブン経営を行う上でのポイントについてご説明いたします。

2.デジタル化

デジタルエンタープライズという概念があります。それは人やモノ、カネの動きが情報によって管理され、またデジタル技術を活用することによって価値を創造する企業の姿です。その企業は大量の情報を入手し迅速に行動に移すことによって持続的な成長を続けることが出来ます。ではそうした企業になるためには何が必要なのでしょうか?

最近よく耳目にする「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。これはデジタルエンタープライズになるための手段のことで、企業活動の仕組みを、デジタル技術を用いて構築・変革するといったことです。これまでの企業を生身の人間と例えるなら、DX化とはサイボーグ化することと言えば大まかなイメージがつかめるかと思います。

DXは決して目的ではなく、ましてや「○○を導入すること」といったソリューションありきのものでもありません。DXとは仕組みづくりのことであり、その仕組みを構成する要素は主に以下の3つに分けられます。

  1. 情報の電子化
  2. データに基づく意思決定
  3. オペレーションのデジタル化

どんなに優れた分析をしてアイデアが創出できても、それを実現する手段がなければ意味がないように、最新のデジタル機器を導入して素晴らしい価値を提供出来ても、情報の入手と分析がアナログであればいずれ陳腐化してしまい成長を継続することはできません。

アメリカの心理学者ウイリアム・ジェームスの有名な言葉、「心が変われば行動が変わる・・・」ではありませんが、DXとは企業活動における情報と思考、行動の一貫した変革のことです。そして本記事のテーマであるデータドリブン経営とは思考の変革であり、要素のひとつである「客観的なデータに基づいて経営上の意思決定を行なうこと」を指します。

3.データドリブン

データドリブンとは客観的データに基づいた意思決定を意味します。その対極にあるものは「勘と経験に基づく意思決定」であり、この「勘と経験」を意思決定から排除することが目的の一つになっています。しかし筆者はそれに少し異論があります。データドリブンとは勘と経験の対極ではなく、勘と経験を内包したものなのではないかと思っています。中小企業支援をしていると、過去の幾つかの経営判断が現在の苦しい状況をもたらしたのではないかという場面に出会います。当然それは経営判断の失敗であるのですが、その経営者様は一方で会社を現在の姿にまで大きくし、継続させてきた経営判断をしてきた人でもあります。データドリブンという概念がまだない時代の過去の判断が「勘と経験」によるものだったとして、では過去と現在の結果の差は何が違うのでしょうか。
それは経営判断に至るまでの情報です。

もちろん経営者本人の知識のアップデートは必要ではありますが、妥当な判断にはそうした経営者本人の力量以上に情報の質と量が重要です。「勘と経験では通用しない」とは、主観を含む十分でない分析(勘)と古い情報(経験)では有効な経営判断に至れないということを意味します。会社の成長とともに組織構造や外部環境は拡大・複雑化していくでしょう。一方で、組織の情報処理能力がそうした環境の変化に対応出来ていなければ経営判断に十分な情報を提供することが出来ません。そうした中、情報が生かされずに、あるいは古い情報を根拠に下された判断は、会社に有益な結果をもたらさないでしょう。

そして、鮮度がありかつ大量の情報を経営判断に用いるために必要なことは、必要な情報を明らかにすることと分析・可視化です。目的もなく、また目的との関連性が不透明な情報をいくら集めても、それがいい結果に結びつくことはありません。また、数字の羅列を見てもそれが何を表すのかわかる人は少ないでしょう。目的から必要な情報を明確にして、誰が見てもわかる形に可視化することが経営判断をするために必要なことです。

どのような情報が必要となるのかは、その時代・状況によって変わります。そのため管理情報をデータベース化し情報を取り出しやすくすることはデータドリブン経営を行なう上で必要でしょう。しかし経営判断に必要な情報が不明瞭なままならば、その投資はペーパレス化以上の効果を会社にもたらしません。IT投資を行う際には何を導入するかだけでなく、それを導入する目的や導入後の活用方法についても十分に社内で話し合ってください。

4.最後に

「勘と経験」の弊害は経営判断の根拠(情報)そのものを勘と経験に頼ることです。しかし「勘と経験」をインスピレーションと呼ぶのなら、客観的データに基づく意思決定に独創性を加えるスパイスは、まさにこの部分です。客観的データを共有したうえで、経営者や社員の皆様の勘と経験は、閃きや将来予測の部分で発揮されるものだと思います。

DXと聞くとどこか遠い世界のようで、時代の流れに取り残されたようにも感じますが、会社の情報を電子化して、その分析結果に基づいた意思決定を行なうことはそれほど難しいことではありません。そしてその先の実現化にデジタル技術の導入が有効であるならば、それはもうDX化の入口に立ったことになります。

もちろん経営判断に必要な要素はこれだけではありません。情報を吸い上げるためのマネジメントシステムや、それを分析する人づくりなども必要となります。

もしその環境づくりが自社だけでは難しそうなら、ぜひ我々を始めとした外部の専門家を頼ってください。自治体にはそうした専門家を派遣する制度もございます。

皆さまが、データドリブン経営をやってみようという経営判断を下されることを心よりお待ちしております。

11月18日に、下記のセミナーを開催いたします。このセミナーでは、売上向上のためのデータ活用の方法についてご紹介する予定です。個別のITスキルの紹介ではなく、データをどのように経営・事業に活用するのかを中心にご紹介いたします。

■経営課題解決セミナーのお知らせ

川崎中小企業診断士会では、川崎市産業振興財団と共催で、「新たな挑戦の時代の持続可能な企業経営」というテーマで全6回の経営課題解決セミナーを開催しております(詳細・申込方法はこちら)。

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