補助金利用は要注意(知っておくべき“落とし穴”と正しい活用法)

中小企業診断士 西岡 健太郎

中小企業にとって補助金は、返済不要という大きなメリットを持つ心強い支援策です。
設備投資、IT化、販路開拓など、前向きな取り組みを後押ししてくれる制度も多く、川崎市内でも積極的に活用されています。
しかし一方で、補助金の活用に慎重さが欠けると、経営に予期せぬ負担やトラブルを招く可能性もあります。実際、補助金を利用したことで「仕事が回らなくなった」「資金繰りが苦しくなった」と後悔する声は少なくありません。
この記事では、補助金の利用で特に気をつけたいポイントを丁寧に解説し、川崎市の中小企業が安全かつ効果的に制度を活用するためのヒントを紹介します。

1.補助金の入金は遅い

補助金は「後払い方式」が基本です。まず企業が自腹で全額支払い、事業が完了してから報告書を提出し、事務局の審査を経て初めて入金されます。

  • 入金まで半年~1年かかることもある
  • 経済環境によって審査が長引く年もある
  • 書類の不備があればさらに遅れる

「補助金があるから資金の心配はいらない」と考えるのは大きな誤解で、むしろ資金繰りには普段以上の注意が必要です。立替負担が重い小規模企業では、補助金を活用することで逆に資金繰りが悪化するケースもあります。

2.複雑なルールを正しく理解しないと不採択・返還のリスク

補助金には、細かく厳格なルールがあります。

  • 発注の順番(見積依頼→見積→契約→納品→請求→払込)を守る必要がある
  • 複数業者から見積もりを取得する必要がある
  • 事業期間外の支払いは対象外
  • 支払い方法は「振込限定」などの規定がある
  • 事業内容を変更する場合は事前の承認が必要

これらを知らないまま事業を進めると、「採択されたのに補助金が下りない」「返還を求められる」といった事態が発生します。

特に、「見積もり取得前に発注してしまった」というのはよくある失敗例です。
補助金は“形式・手順を重視する制度”であることをしっかりと理解する必要があります。

3.採択後の事務負担は想像以上に重い

補助金の本当の大変さは、採択後にやってきます。

  • 経費ごとに証憑の整理
  • 契約書・領収書の保管
  • 実績報告書の作成
  • 事務局とのメールのやり取り
  • 写真撮影や証拠資料の準備

これらを正確に進める必要があり、場合によっては通常業務の何倍もの手間がかかることもあります。

4.設備や仕様の変更が自由にできない

補助金を使うと、事業計画の自由度が大きく下がります。

  • 設備の仕様変更
  • 業者の変更
  • 工事や導入時期の変更

これらはすべて事務局の承認が必要で、許可が下りるとは限りません。
「もっと良い仕様を提案されたが、変更できない」といったケースは珍しくありません。
補助金は、“柔軟な経営判断”とは相性がよくないことを理解しておきましょう。

5.会計検査院によるチェックの可能性

国の補助金の場合、数年後に会計検査院から調査が入る可能性があります。
補助金の使い方に不適切な点があれば、後日返還を求められることもあります。
領収書の紛失や説明不備など、些細な誤りでも指摘される場合があり、
「補助金は終わったら終わり」ではないという視点が必要です。

6.高額なコンサル費用に注意

補助金申請を請け負うコンサル会社も増えています。
もちろん優良な会社もありますが、次のようなケースも見られます。

  • 成功報酬30%以上
  • 採択後の事務手続きは別料金
  • 制度のルールを十分説明しない
  • 実務を丸投げしてしまい、社内に知識が残らない

補助金の“魅力”だけに目が行くと、費用対効果が合わない結果になることもありますので注意が必要です。

7.詐欺や悪質商法にも注意

近年、「補助金が出るから実質無料」などと偽って高額商品を売りつける業者や、架空の申請支援をもちかける詐欺も増えています。

  • キックバック等の違法な手法を持ちかける
  • 「必ず採択される」と断言する
  • 契約を急がせる
  • 制度の説明が曖昧

といった特徴がある場合は要注意です。

8.採択率の変動・制度変更の多さ

補助金は国の政策・予算に大きく左右されます。ある年は採択率が高いが、翌年は大幅に低下する、などといったことが頻繁に起こっています。また、補助金が統合・再編されたり、補助対象となる事業の内容が変わったり、書類の形式が変更になったり、など、制度変更が頻繁に発生します。「去年通ったから今年も通るだろう」という考えは危険です。

9.税務上の影響(益金算入)

補助金は原則として益金算入され、利益として扱われます。
補助金を受け取った翌期に税負担が増加する場合もあり、税務の影響を理解しないまま進めるとキャッシュフローに影響します。

10.社内の理解不足がトラブルを招く

補助金は社内にも負担を生じさせます。社長だけが前のめりになり、現場が使いこなせなかったり、事務負担に不満が出たりすると、補助金活用が社内のストレスにつながることもあります。
担当者の確保と社内の合意形成が重要です。

■ 補助金を使うべき企業・使わない方がよい企業

補助金を検討する際は、次の観点が判断材料になります。

◎ 使うべき企業

  • 補助金がなくても投資する予定
  • 立替資金に余裕がある
  • 事務作業を丁寧に行う社内体制がある
  • 本来の事業目的が明確であり、補助金は“後押し”に過ぎない

◎ 使わない方がよい企業

  • 補助金ありきで事業を考えている
  • 資金繰りが厳しい
  • 事務対応を担う人材がいない、ルールを守る事務作業が苦手

補助金は資金調達の一手段であって、万能な仕組みではありません。

■ 利用するなら「正しい知識」と「無料相談」の活用を

補助金は魅力的ですが、同時に高度な制度でもあります。だからこそ、制度を正しく理解し、自社で判断する力が必要となります。

川崎市には、川崎市産業振興財団などで無料の経営相談窓口を開設しており、経営の悩み等に加え、補助金等の活用についても相談することができます。高額なコンサルを契約する前に、まずは公的相談窓口を活用することで、不必要なトラブルを避けることができます。

■ まとめ

補助金は強力な支援策ですが、甘い期待だけで利用すると、多くの落とし穴が待っています。入金の遅れ、複雑なルール、事務負担、税務、返還リスク、社内負……。これらを理解したうえで活用することが、補助金を“経営の追い風”にするポイントです。

川崎市の中小企業の皆さまが、補助金に振り回されることなく、事業成長につながる形で制度を安全に活用できるよう願っています。

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