長寿企業に学ぶ事業継承の方法

髙橋 栄一

中小企業の1/3は後継者不足である

筆者は2018年2月に茨城県自動車整備組合協議会の講演会・座談会の講師として招かれたが、その際に後継者問題について座談したところ「組合員の1/3が後継者不在である」ということをお聞きし、あまりの多さに驚いた。

2020年2月6日に中小企業庁の「2020年度中小企業支援策説明会」では「中小企業経営者は約381万人(2016年度調査)いる。この中70歳以上の経営者(平均引退年齢)約245万人の半分約127万人(日本企業全体の1/3)が後継者未定である。 後継者未定の理由は、後継者不在が77.3%、後継者候補はいるが承継を拒否しているが22.7%である。現状を放置すると中小企業の廃業が進み、今後10年間累計で雇用が約650万人とGDP約22兆円が失われる可能性がある」とのことであった。

茨城県の後継者不在率は国の現状と同様であることがわかった。 後継者不在は中小企業における最大課題である。

長寿企業の特徴

1.後継者候補を早く決定している

筆者は長寿企業の秘訣を昨年3~4月に秦野商工会議所の協力を得て秦野市の創業100年以上の長寿企業5社(業種は医薬品小売業1社、食品加工業1社、酒造業1社、飲食業1社、金属加工業1社)を取材した。今回長寿企業が事業承継をどのように行っているかをご紹介する。

まず現社長の事業承継の方法は実子4社、婿1社でした。そして社長に就任するための事前準備は他業界での体験が3社、学校卒業後間もないが2社であった。

次に承継時期では5社とも20歳代から始まっていた。

医薬品小売業は前社長の長男であることから、当然に承継すると思っていたので、特に違和感はなかった。事業承継前の職業経験は薬学大学卒業後即入社したが、前社長から、わずか3~4月で「お前の好きにしろ」と印鑑や通帳などを渡され、社長の座に就いた。

食品加工業者は前社長から女婿として乞われて入社し、後継社長となった。同社に入社される前は秦野市内の食料品メーカーのサラリーマンであった。

酒造業者は子供のころから事業を継承するのが当たり前と思っていたので、特に抵抗感はなかった。事業承継前の職業経験は大学卒業後レストランに1年間就職して、同社に入社した。

飲食業者は前社長の指示で高校1~2年ごろに業界のセミナー受講や先進外食産業のアメリカのレストランを視察した。高校を卒業してアメリカの大学に通いながら同時にレストランスクールでも学んだ。その後4代目の社長に就任した。

金属加工業者は29歳の時に前社長が病気で倒れたので急きょ4代目に就任した。祖父からOJTを通じて技術を学んだ。

2.現社長は次の後継者づくりを始めている

現社長の取材では、どの現社長も「事業を継続させなくてはならない」という強い使命感・意識を持っていると感じた。そして事業承継は当たり前と思っていた。

次期後継者づくりは早期に候補者を決定し、早期に育成に取り掛かっている。次期後継者の選定では、実子が2社、社員起用が1社、実子(中学生)がいるが未決定1社、実子がいないが1社であった。

次期後継者の育成方法は候補者が決定している企業では自社に入社させOJTなどを通じて実施されているが2社、そして飲食業者は実子を外食チェーンの店長に任命し勉強させている。後継者が決定していない酒造業者は「実子が承継しない場合は、従業員や外部からの登用、合併,同業者グループ傘下入る、M&Aも必要になってくる」と言われていた。実子のいない金属加工業者は「外部の人や社員が承継してくれる魅力ある企業づくりに努めたい」と言っている。

提言

1.後継者候補は出来るだけ早く決定する

現社長はいつ病気や事故に遭遇するかはわからない。また後継者に事業を承継して行くためには10年ぐらいの教育期間が必要と言われている。社長の年齢が50歳後半になったら後継者候補を決定する必要がある。筆者のクライアントのA社(機械製造業、従業員25名、創業50年)の2代目社長は65歳の若さで、病気で急逝した。後継者に創業者の実子が就任したが、技術者であったことから経営のことがわからず、途方に暮れた。またB社(産業廃棄物処理業、創業15年)の社長(80歳)は、実子はいるが承継を拒否され、困惑されている。

教育の方法として、異業種に就職する方法もあるが、多くの社長が比較的疎いと言われるファイナンス・銀行取引、マーケティング、経営戦略などを習得させる機会を設けてもらいたい。

2.魅力ある企業づくりに取り組む

今後親族から後継者が得られなくなってくることが予想される。従業員や外部からの登用やM&Aなどの方法があるが、いずれにしても魅力ある企業づくりが必要である。魅力づくりの方法として、中期計画を後継者に策定させるとか、神奈川県がんばる企業や神奈川県優良工場の認定、経営革新計画の承認を受ける。また経済産業省の事業継続力強化計画の認定を受ける、ものづくり補助金制度などの公的制度を活用してもらいたい。

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