「中小製造業の利益向上は現場のムダ取りから」 (副題:原点に立ち返りものづくり現場のムダを理解しよう)

中小企業診断士 野口 隆

1.日本経済の失われた30年と製造業

IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が作成する「2023年版世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)」では日本の競争力総合順位は過去最低の35位でした。また上場企業の時価総額世界トップ50社として1989年時点で日本企業が32社も入っていたのが、2021年ではトヨタ自動車の1社のみと大きく後退しました。さらに実質賃金も過去30年間は増加しておらず、失われた30年という状況です。その大きな要因の一つに日本の製造業の競争力低下が大きく影響しています。

2.日本の国内総生産GDPについて

失われた30年間で日本のGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)は1995年以降ほぼ横ばいです。それに比べ他の5カ国は拡大しています(図-2)。米国や中国のGDP拡大は就業人口増加が一つの要因ではありますが、それよりも1人当りのGDPつまり「付加価値生産性」が大きく向上したことによります。それに比べて直近の3年間はコロナ禍の影響も大きくGDPは逆に減少しました。1995年以降、日本の人口は減少していないので、その最大の要因は「付加価値生産性」が向上しなかったことです。付加価値生産性の大きさは国の豊かさを測る指標ですが、日本は過去25年間この指標が上向くことは無く生産性向上の努力が全く足りなかったとも言えます。

3.日本の付加価値生産性について

経済成長を表す日本のGDPは前述した通り、ほぼゼロ成長という不名誉なことになっています。その要因として日本の製造業のものづくり現場が安い労働力を求めて海外移転に走った結果、日本国内の製造業は空洞化し、「ものづくり」で得られる付加価値額も大幅に減少、生産性も低迷したことが挙げられます。かつては「ジャパン・アズ・ナンバーワン(JAPAN AS No.1)」と言われ、世界に誇れる「日本のものづくりの栄光」は遠い過去のものになった感があります。

とはいえ日本のGDP総額は現在でも世界第3位ですが、それは人口が多いからであり2022年の全国民「一人当りGDP」いわゆる「付加価値生産性」は、先進国では最下位グループで、台湾13位、韓国30位、日本36位という数字です(図-3)。製造業だけを比較すれば36位より上位ですが<参考2>、とても自慢できる数字ではありません。 図-3にはありませんが、中国は21400米ドル$の76位、インドは8400米ドルの131位となっています。
(注)付加価値生産性(1人当たりのGDP)=GDP÷総人口数

<参考1> 全産業の就業者1人当りの付加価値生産性

前述の付加価値生産性は全国民平均について比較しました。しかしながら真の生産性を評価するには就業者1人当りのGDPを評価するのが適切です。これはOECD加盟の38カ国のデータが公表されているので、参考まで図-4に示します。

日本の就業者1人当りのGDPは81,510ドル/人で、OECD加盟国中29位と下位グループに位置しています。さらに金額比較として日本を100%とすると、米国187%、ドイツ144%、韓国110%と日本は低迷し、とても自慢できる生産性とは言えません。
(注)就業者1人当たりGDP=日本全体のGDP÷就業者人口

<参考2> 製造業の就業者1人当りの付加価値生産性

日本の製造業1人当りのGDPについて比較してみると、OECD加盟38カ国のなかで、18位と中位グループに位置し、全産業平均に比べると良い結果になっています。また金額比較として日本を100%とすると、米国172%、ドイツ104%、韓国101%となり、ドイツや韓国と同レベルとはいえ、米国に比べると大幅に劣っています。

4.製造業における時間生産性向上の取り組み

過去3年間は新型コロナウィルスの感染拡大により、サプライチェーンが分断され、材料や部品調達が滞り生産がストップ、世界的に経済活動も停滞しています。そんな中、日本のものづくりは国内回帰の動きも見られるようになっています。また近年為替は円安の長期化が予想され製造業の国内回帰やコスト競争力には大きな追い風となります。これまで日本の製造業は海外生産の廉価な労務費を活用することでコスト低減を達成してきました。その結果、ものづくりの過程で革新的な知恵や技術を使って付加価値生産性を向上させる取り組みが疎かになったようです。

(1)労務費と時間生産性

ものづくりで最大の費用は労務費ですが、【A】労務単価と【B】時間の積(下式)で表されます。

【A】または【B】のどちらかまたは両方を小さくすれば労務費は低減できます。これまで【A】の安い国へ海外移転したり、低賃金で外国人労働者を雇用したりする安易な方法で労務費低減を実現してきた感があります。このような取組では決して革新的な技術や知恵は生まれてきません。生産性向上で最も大切なのは【B】時間の低減を目指すことですが、この取組みこそが付加価値生産性向上の本質です。海外生産に頼るだけでは「ものづくりの革新や競争力」は向上しなくなります。海外の労務単価が安いとはいえ、その甘い果実は小さくなりつつあり、海外生産のリスクも覚悟すべきです。 

時間生産性向上が重要であり、それによって付加価値を日本国内に取り戻して日本国内のGDP生産性を向上させる必要があります。これは新たな生産方法、自動化、DX化など「ものづくりの力」を革新して、国内製造業の競争力そして供給力を高めることが肝要です。

(2)付加価値生産性と賃金向上

賃金は付加価値生産性と密接な関係があります。付加価値が増えない中で賃金を上昇させようとすると、企業は利益を削らざるを得ません。生み出された付加価値が企業利益と賃金、減価償却費などの原資になるためです。 賃金の動向は労働分配率(=総労務費÷付加価値額)や雇用情勢などにも影響されますが、付加価値生産性が向上すれば(就業者1人当たり付加価値額が増えれば)、その分だけ賃金に振り向ける原資が増え、賃金上昇の余地が高まります。つまり従業員の賃金を増加させるには付加価値生産性の向上が必須ということです。そのためには永続的に改善活動を実施して時間生産性向上に努めることが必須です。これを簡潔に表現すると下記のようになります。

5.日本の製造業における現場の位置づけ

今こそ、ものづくりの原点回帰をして付加価値生産性向上に邁進することが求められています。そこで過去に培ってきた日本のものづくりの考え方や知恵を簡単に整理したいと思います。

日本独特の「三現主義」※という言葉に代表されるように、価値を生むのは「ものづくりの力」をもっている「現場」という考え方です。さらに「ものづくりの力」とは高い生産性を通じて「価値」を生み出す力のことであり、これを「現場力」と呼んできました。 さらに現場力とは「知恵や知識」「技能や技術」「姿勢や意識」などの総称を意味します。優れた現場力を備えている企業は、高い価値を生み出せる力量があるということです。設備や道具も重要なものづくりの資産ですが、これを考え出すのも現場力であり、これも人間の知恵です。 つまり高い生産性で大きな価値を生むには「現場力」を備えることが必須ということになります。

※三現主義とは:机上の空論ではなく、実際に“現場”で“現物”を観察し、“現実”を認識した上で改善解決を図るという考え方のことです。

そして強い「現場力」をもっている生産現場では共通の特性や特色がありますが、ここではその特徴やキーワードとして重要なものを6つ取り上げました。

特性①~⑥が欠けている生産現場では、作業者は右往左往していてバタバタと動いているものの、その行動は属人的で単独の動きが多く、チームとして協働で作業をこなしていく仕組みになっていないため、作業者はムダな動きが多くなり、生産性は悪いという結果になります。

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