働き方改革実現のポイント

菊地 和志

 

働き方改革の概要

人口減少に直面する我が国において、多くの人の労働参加を促し、活力をもって働き続ける環境を整備し、生産性を高めることが重要課題になっています。その対応として本年3月に「働き方改革実行計画」が決定され、高度経済成長の時代から長く続いてきた雇用関係やワークスタイルは大きな転換点を迎えようとしています。

「働き方改革実行計画」は、非正規雇用の処遇改善や賃金引上げと労働生産性向上に関する「処遇の改善」、長時間労働の是正や柔軟な働き方や育児・介護・治療等との両立支援の環境整備に関する「時間や場所などの制約の克服」、女性・若者・高齢者・外国人等の多様な人材の活躍に向けたキャリア形成・人材育成支援に関する「キャリアの構築」の三本柱で構成されており、複雑に絡み合う課題対応を総合的に推進していこうとするものです。

「働き方改革実行計画」に沿って、労働基準法など複数の改正法を束ねた「働き方改革関連法案」が今後の審議を経て施行される見通しです。長時間労働の是正について年720時間、月平均60時間を上限に残業時間を制限しようとする「残業時間規制」、正社員と非正規社員の不合理な格差を是正しようとする「同一労働同一賃金」、そして高度プロフェッショナル制度による「脱時間給制度」が三本柱として注目されています。「働き方改革関連法案」と「働き方改革実行計画」の関係は(図)に示す通りです。

 

(図)働き方改革関連法案と働き方改革実行計画の関係

企業に求められる対応

関連法制の一部については中小企業の対応が間に合わないことが懸念されており、経過措置が設定される見通しですが、やがては中小企業においてもその対応が求められます。

企業がその対応を進めるうえで、パッチワーク的に進めようとしてもうまくいきません。社会・企業経営・生活が複雑に絡み合う「働く」ことの課題対応を効果的に進めようとするならば、総合的かつ同時並行的な取り組みが不可欠であり、そこに企業における対応の難しさがあります。だからといって、働き方改革への取り組みを放棄してしまうと今後の人材獲得競争で勝ち残ることは困難となり、最悪の場合は人手不足によって事業存続が叶わなくなるという大きなリスクを抱えてしまうことになります。

働き方改革に対する関心の高まりをビジネスチャンスとして捉え、様々な業種業態で働き方改革関連ビジネスが花盛りになっています。それらの成功事例として紹介されるものの多くは名だたる企業ばかりであり、中小企業における働き方改革は難しいと感じてしまいますが、大企業よりもむしろ中小企業の方が働き方改革を進めやすいのです。その理由は、トップの意志浸透に時間が掛からず、柔軟な組織運営が可能であり、コミュニケーションよく仕事を進める土壌が既に備わっている点にあります。そして、それらの中小企業ならではの強みを発揮し、働き方改革を実現するためには二つの方策、①ITの活用と②外部資源の活用が不可欠になります。

働き方改革を進めるうえで、その土台となる生産性向上の実行は避けては通れませんが、生産性向上を実行するうえで有効なIT活用が中小企業では進んでいません。その理由のひとつに、クラウドやスマートフォン端末など低コストの生産性向上ツールの認知が進んでいないことがあげられます。それらを工夫しながら活用するだけでも中小企業の生産性は劇的に向上できます。

そして、生産性向上に向けたIT導入、働く環境整備における労務管理制度構築、体系的な人材育成計画作成等を人的資源に限りのある中小企業が自前で進めることは困難であることから、公的な支援制度等を利用し専門家等の外部資源活用を図ることが必要です。

 

働き方改革実現のポイント

ITの活用と外部資源の活用で中小企業も生産性向上を実現し、働き方改革の基盤を作ることは可能ですが、実現における一番のポイントはトップの「働き方改革」に対する意思表明とリーダーシップだと考えます。働き方改革を企業戦略として位置づけ、その実現に向けて生産性の目標を明示し、従業員が職業生活の目的として主体的に実行できるしくみを整え支援することがトップに求められます。

終わりに、ある中小製造業のトップから興味深い話を聞かせていただきましたので紹介させていただきます。その企業の生産現場では長時間残業が問題になっていましたが、一日の作業予定報告と残業の事前申告制を徹底しただけで残業時間が大きく削減されたということでした。社長がおっしゃるには、管理ルールの徹底だけでは残業削減は果たせず、並行して従業員一人一人と面談し、社員の働く目的や将来像、やりたい仕事などの話に真剣に耳を傾け、会社の掲げる残業削減の目標について丁寧に話す機会を設けたのが功を奏したのだろうとのことでした。生産性の目標を明確にすると共に一人ひとりが生活の目的のひとつとしてそれに取り組むことで働き方改革も前に進んでいくという希望の持てる事例ではないでしょうか。

企業の生産性向上を支える者として、ひとつでも多くの企業が働き方改革を実現できるよう支援していきたいと考えています。

 

なお「働き方改革」に関しては、セミナーも行う予定です。ご興味をお持ちの方はそちらの案内も、ご覧いただければと思います。

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