IoT活用のポイント

新井一成

1.IoTの時代

IoT(Internet of Things)は「モノのインターネット化」と言われ、新聞やテレビなどのメディアで目に触れない日はないぐらい、一般的に使われるようになってきました。

スマートフォンやパソコンがインターネットにつながっていることは、誰でも実感していると思いますが、実はそれ以外にも様々な「モノ」が既にインターネットとつながっています。身近なところではテレビやビデオレコーダー、そして自動車や靴(!)なども一部インターネットにつながっています。さらに冷蔵庫やエアコンなどをインターネットにつなぐ試みも始まっています。

このようなことが可能となったのは、技術の進歩により①さまざまなモノがディジタル化されたこと 、②インターネットへの接続のコストが下がったこと、などによるものです。今後もこの傾向が続き、インターネットに接続される「モノ」は増え続け、「IoTがあたりまえの時代」となりつつあります。

2.IoTビジネスの仕組み

IoTをビジネスで活用する場合は、大きく分けると次の四つの仕組みが利用されます。

第1の仕組みは「データ収集」です。スマートフォンを例に取ると、内部には温度、加速度、方位、位置情報(GPS)など様々なセンサーが内蔵されています。これらのセンサーから得られるデータをインターネットを通じて集めることができます。同様に様々なものに内蔵されるセンサーやモノの動作状況のデータを集めることが最初の仕組みになります。例えば、衣服の繊維にセンサーを編み込んで、着ている人の健康状態を検知するような試みが行われています。

第2の仕組みは「データの分析」です。収集されたデータを分析して役に立つ情報を引き出します。例えば工場の設備の稼働状況を収集して稼働率という形に集計することです。単純にデータをグラフ化することから、ビッグデータ分析や人工知能を利用した高度な分析まで様々な手法が利用されます。

そして、第3の仕組みは「分析結果の判断」です。データの分析結果に加え、人間が持つ経験や過去から蓄積されたノウハウを組み合わせて「判断」を行います。IoTによって収集するデータを長期間にわたって蓄積することで、判断のためのノウハウを獲得する場合もあります。例えば、工場の設備の稼働状況のデータを蓄積することで、故障予知のためのノウハウを獲得する、というようなことが考えられます。

最後に、第4の仕組みは「アクション」です。判断の結果によって、「モノ」をコントロールして動作を調整したり、人間の行動を変えたりすることで、効率改善やよりよいサービスの提供につなげます。例えば、工場の設備の故障予知の結果により、予防保守を行うことなどが考えられます。

3.IoT活用、3つのステップ

IoTの時代には、これを活用した様々な新ビジネスが登場し、場合によっては既存のビジネスのやり方が大きく変わってしまうこともあります。そこで、IoT活用することは企業にとって重要な経営課題となります。そしてIoTの活用は、大企業だけではなく、中小企業にとっても大きなビジネスチャンスとなりえます。それでは、どのようにIoTの活用を進めたらよいのでしょうか?

これからIoTを活用しようとする場合には、次のような3つのステップを踏んで行くことがお勧めです。それぞれのステップをビジネスに結び付けることで、最終段階に達する前からIoTの効果を享受することができます。

ステップ1:データを集めて「見える化」する

IoT活用の第一歩はデータを収集して分析し「見える化」することです。自社の商品に通信機能を組み込んでデータを集めることが基本ですが、そこまでできない場合でも販売する商品のデータを集めるといったところから始めることも可能です。また自社内の設備の稼働状況を収集して見える化するだけでもコスト削減や効率改善のためのアイデアに結び付く場合があります。ショッピングセンターで、買い物用のカートの位置情報を収集することで、顧客動線分析を行い、商品レイアウトを工夫し売上拡大に結び付けた事例もあります。

商品の利用状況などは、見える化した結果を、企業内で利用するだけではなく、お客様に提供することで、新サービスや売上拡大に結び付けることも考えられます。

ステップ2:データを蓄積して「知恵」に変換する

集めたデータは、見える化して活用すると同時に、蓄積を行います。データを長期間にわたって蓄積することによって、蓄積されたデータから新たな「知恵」を得ることが可能になります。建設機械メーカーのコマツは、建機の盗難防止のために収集したGPSデータを蓄積して分析することで、建機の省エネ運用方法をアドバイスするノウハウを獲得しました。また蓄積されたデータに加えて、公共機関や他の企業などから得られるデータを組み合わせることで、さらに新しい「知恵」を生み出せる場合もあります。データを蓄積するためには一定の時間が掛かりますので、そこから得られたノウハウは、他社が簡単には真似できない「強み」になります。

獲得したノウハウは、自社の改善に役立てるほか、コマツの例のようにノウハウ自体をビジネスとして収益化できる可能性もあります。

ステップ3:新たな価値提案

蓄積されたノウハウを使って、お客様に新しい機能やサービスを提供する段階です。IoTを使ってお客様に販売した製品の稼働状況を監視し、故障の兆候を見つけ出し、予防保守を行えば、お客様にとっては、事実上「無故障」の製品を提供することができます。また、ある工業用のエアコンプレッサーメーカーでは、IoTを使ってコンプレッサーの遠隔制御・管理を行えるようになったため、コンプレッサーを販売するのではなく、利用した圧縮空気の量に応じて料金をいただく、新たなサービスビジネスを始めた事例もあります。これらは、IoTを活用した「ビジネスモデルイノベーション」と呼ぶことができます。

IoTは華々しく宣伝されている面もありますが、一方地道にデータを収集・蓄積する努力が必要です。そうして獲得したノウハウを強みとして、新たなビジネスの改革に取り組むことが、IoT時代の成功のポイントとなります。

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