モノ発想からコト発想により自社の需要を発掘する方法

今喜多 秀幸

アンゾフの成長ベクトルと中小製造業の対応

皆さまは、「アンゾフの成長ベクトル(マトリクス)」という言葉をお聞きになったことはございますでしょうか?

「アンゾフの成長ベクトルもしくはマトリクス」とは、米経営学者のイゴール・アンゾフ氏が、1965年に出版した「戦略経営論(Strategic Management)」の中で提唱した、企業が成長するための方向性を示す戦略モデルです。

企業の事業領域について、経営戦略上の位置づけを行うために、市場と製品の2軸を設定し、それぞれを既存、新規に分けることによって、成長戦略を「市場浸透」、「新市場開拓」、「新製品開発」、「多角化」の4つに分類しています(以下、図1:アンゾフの成長ベクトルをご参照ください)。

以下に、上記の4つの戦略について記載します。

①「市場浸透」戦略
既存の市場に既存の製品を継続して投入することで、市場への更なる浸透を進め、シェアの拡大を図る戦略です。

②「新市場開拓」戦略
既存の製品を新たな市場に投入することで、新規の顧客層や未開拓地域をターゲットとした戦略です。

③「新製品開発」戦略
新市場開拓戦略とは逆で、既存の市場に新製品を投入する戦略です。

④「多角化」戦略
新たな市場をターゲットに新製品を投入する戦略です。これには、異業種参入も含みます。

この「アンゾフの成長ベクトル」では、戦略が4つのマトリクスに、わかり易く整理されており、当時としては、企業の戦略を明確に示す上で非常に優れたものでした。

一方、現在の日本の中小製造業様にこれを当てはめようとすると、

  • 日本国内のマーケット自体が高齢化、大手企業生産拠点の海外移転などにより縮小しており、市場浸透戦略が困難に思われること
  • 新市場開拓、新製品開発、多角化は、経営資源(人、モノ、金)の乏しい中小製造業様には参入リスクが高いこと

が挙げられ、この図では、どういう戦略をとれば良いか、解が見出せません。

この「アンゾフの成長ベクトル」は、今から、50年以上前に作られたもので、まだ作れば売れる時代のものであったので、致し方ないかもしれません。

では、現在のモノが売れない時代には、どこに方向性を見出せば良いでしょうか?

3次元化したアンゾフの成長ベクトルと今後の戦略

そこで、このアンゾフの成長ベクトルに、もう1つの経営資源である「情報」をベースに、新たな軸を追加してみましょう。

これは、私が、オリジナルで作成したものですが、新たに「提供価値軸」を追加し、発想をモノ発想からコト発想に変えることにより、新たな需要が発掘できることを示したものです。

皆さま方の多くは、自社製品・技術の仕様に着目し、顧客が提示した仕様に対して、如何に付加価値(QCD*1の向上)をつけるかというモノ発想をしていないでしょうか?

これは、以下の図3を見ていただければお分かりの通り、致し方のないことです。

つまり、皆さまのところに案件が降りてくる時には、窓口は、下流層(購買・調達部門などの方)になっており、仕様が殆ど決まった顕在需要になっています。

これに対し、皆さまは、如何に付加価値をつけるか日々、努力されている訳です。

しかし、このスパイラルでは、自社の製品・技術の仕様にしか着目していないため、他社との差別化が難しいとともに、新規顧客開拓も、ますます困難になってしまいます。

そこで、仕様をどうするのかではなく、顧客の使用場面を浮かべ、コト発想、つまり、顧客の上流層(開発・設計部門などの方)の困りごと、悩みごとなどの解決策を提供するのが自社の製品・技術であるという風に考え直して見ます。

具体的には、自社の強み(シーズ)をコト発想することにより、自社の製品・技術が、顧客の上流層に対し、どういう困りごと、悩みごとの解決策を提供できるのかを考え、従来のモノ発想からコト発想に発想を変えます。

そして、自社のコト発想による提供価値を自社のホームページで訴求することにより、それを必要とする顧客側からの引き合いにつなげます。

例えば、自社が金属切削加工で、加工手順のノウハウに加え、自社で図面作成から、コスト低減や、精度を上げるための形状提案ができるとした場合、顧客の「設計品質と製造品質の折り合いをどう付けたらコストを下がられるかという困りごと」に対して、解決策を提案できることを訴求するために、自社のホームページ上で、「金属部品の設計見直しによる量産コスト改善提案」などのタイトルで、提案内容を訴求すれば、この悩みを持った上流層の方から引き合いを受けることができます。

結果的には、新市場開拓ではと思われるかも知れませんが、発想を変えるだけで、お金を掛けずに、需要を掘り起こせる取り組みとして中小製造業様には有効な策であると考えます。

加えて、今、ホームページは、CMS*2などのツールを使えば、自社で簡単に制作、修正ができる環境が整いました。営業リソースの少ない中小製造業様こそ、自社でホームページを運営し、先のコト発想による価値発信で、新規需要の発掘を行うことが、今の時代には必要なことではないでしょうか。


※1  QCD: Quality(品質)、Cost(価格)、Delivery(納期)
※2  CMS: Contents Management System
管理画面からテキストや画像を登録することで、HTMLのスキルがなくてもホームページを更新することができるシステムのこと

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