瑞穂の国の資本主義

佐藤康生

  日本が主導し、国連や世銀、アフリカ連合委員会などとの共催による第5回アフリカ開発会議(TICAD:Tokyo International Conference on African Development)が、6月1日(土)らか3日(月)にかけて、横浜で開催されました。1993年に初めて開催、5年に1度の開催で、今回は51カ国の代表が出席、アフリカ以外からも35カ国、74の国際機関も参加、安倍首相が議長役を果たしました。ちなみにアフリカの人口は、10億3千万人とのことです。

アフリカでの中国の影響力が増す中、安倍首相は各国首脳とマラソン会談をしました。安倍首相は、今後5年間で最大3兆2000億円の支援を表明し、雇用を作ってアフリカを豊かにするとして、中国との違いを訴えました。リベリアのサーリーフ大統領は、日本は信頼できるパートナーだと強調しました。

安倍首相は官邸のフェースブックで、次のように述べました。

『「多くの国から投資が来ているが、職場に倫理をもたらしてくれる国は日本だけ」。首脳会談の中でうかがった言葉です。「瑞穂の国の資本主義」は、アフリカでも評価されているのを知り、嬉しく思いました。』

「瑞穂の国の資本主義」とは一体何でしょうか。瑞穂と言えば稲作、稲作と言えば田植えや稲刈りでの地域を挙げての共同作業、収穫後の鎮守の神々への感謝を込めたお祭りなどが連想されます。基底に流れているのは神道です。

東北大学名誉教授で美術史の泰斗である田中英道先生は、宗教と産業社会の関係について次のように言っています。

・仏教もキリスト教もイスラム教も個人のための宗教であり、世界のほとんどの宗教は個人宗教だ。

・しかし神道は共同体のための宗教であり世界の中で非常にユニーク、日本には仏教という個人宗教と神道という共同体宗教が一体渾然と社会を織りなしている。

・世界で産業社会が発展したのは、この両宗教があるところでである。西欧キリスト教国は、旧教は個人、新教が共同体宗教的であり、産業社会の発展を見た。

産業社会では組織能力が求められます。言い換えればチームワーク能力で、日本的経営の特徴にチームワークがあることは、夙に言われてきました。こう捉えとる田中先生のお話はよく分かる気がします。

また日本的経営には、労働への価値観があります。西欧では労働は卑賤の身分のする仕事でした。現代の企業経営においても、西欧では偉いのはホワイトカラーであり、労働者は昼の食堂も区別されるなど、身分差は歴然としてあります。

しかし日本では、労働者である「職人」と言う言葉は褒め言葉です。刀職人の名工と言われた人たちは、大名と同じように尊敬され、歴史に名を刻みました。その元をたどれば、神様も機織りや農耕、漁労に勤しんだ神話の世界に行き着きます。共同体社会では、神様は民と同じように労働に勤しむのです。

自然発生的な村々の共同体の組織運営は、飛鳥時代にすでに企業組織を生み出しました。西暦578年、大阪四天王寺建立のために金剛組が誕生、現代大阪にある(株)金剛組に至っています。世界最古の企業です。時代が下り、社会が経済社会として複雑化していく中で、組織運営が進化していきます。江戸時代になると商家は家訓を定めました。現代の企業経営に於ける経営理念・行動指針です。

また共同体の精神も発展していきます。江戸時代、近江商人は「三方よし」と言う理念を掲げて商売を拡げました。「売り手良し」、「買い手良し」、「世間良し」の三つの「良し」です。売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということです。近年これも現代の企業経営において「Win Win の関係」などと言っていますが、日本では江戸時代にすでに実践されていたことでした。またその基底にあるものが「信用」でした。

労働への価値観、共同体の組織運営、共同体の精神、信の文化、これらが産業社会発展の要因となるものと思われます。

前置きが長くなりました。1960年代に日本は高度成長を果たし、1970年代後半から、韓国、台湾、1980年代後半にはタイ、マレーシアなど東南アジアが、1990年代に中国が著しい経済成長を果たしました。そこには日本企業の海外進出、日本からの投資、技術援助等が大きく貢献しています。それは日本を雁の頭とする「雁行型経済成長」と称されました。

しかし単に進出し、投資し、技術援助したからと言って、現地で企業が発展するとは限りません。労働への価値観、チームワーク、三方よし、信用などの共同体的な価値観が醸成されかつ組織運営のノウハウがなければ、決してうまくいきません。

神戸大学経営学部の加護野忠男先生は、昔の松下電器を例に取り、東南アジアでの取組に関して、綿密に調査分析しました。以下はその要旨です。多くの日本企業は多かれ少なかれ、同じような取組をしたと思われます。

(「日本型経営の復権-ものづくりの精神がアジアを変える」、PHP研究所刊)

◇現地政府との契約

・技術的にも資本的にも、自主独立の体質を持った会社づくり

・人材育成に力を入れ、経営幹部を育成する

・ナショナルブランドで売れる商品作り

◇日本的経営管理の導入

・現地の社会に貢献する

・人を育てる オン・ザ・ジョブ訓練、愚直を尊ぶ精神

・愚直なまでに日本的経営のやり方を踏襲 朝礼の実施、整理整頓の励行、改善活動の実施

・組織の中での相互の信頼感(労働者間及び労働者と経営者間など)

◇日本人出向者の薫陶

・勤勉・愚直さ

華商の商業資本主義(かしこさ)とは異なる産業資本主義の精神

(品質に愚直にこだわる、愚直さを尊ぶ精神)

・ウソをつかず正直にと言う姿勢

(「日本人を騙すことは簡単だが日本人から騙されることはない」との評価)

・黙々と働く  規律の習慣化。自分で考えようとする姿勢を生み出す。

・些細なことへのこだわり、そして遵守させる

5S(整理、整頓、清潔、清掃、躾け)の励行

朝礼の励行(朝礼では真っ直ぐに整列させる)

このようにして松下電器をはじめとして日本企業は、共同体としての組織運営に関するノウハウ、組織における人の働き方という労働への価値観といったものを伝えていったのでした。それらが「雁行型経済成長」の基底をなし、アフリカ各国首脳の日本への期待として「多くの国から投資が来ているが、職場に倫理をもたらしてくれる国は日本だけ」との評価になっていると思われます。

他国の経済発展に貢献できる「瑞穂の国の資本主義」の一側面を、事例を思い出して描いてみました。ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた頃、「日本的経営」は賞賛されましたが、その後の失われた20年の中で光を失い、日本的経営だからダメだといわれ、日本は「グローバル経営」なるものを追い求めてきました。それが正しいのかどうか、安倍首相が「瑞穂の国の資本主義」と言った裏には、必ずしも正しくない、日本的経営でお役に立ちますよというニュアンスがあるようです。是非私たちは、長い歴史・文化・伝統に支えられた日本的経営を、世界にも貢献できる視点で見直していく必要があるのではないでしょうか。

以上

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