中小企業の健康経営とは

齊藤 拓

お隣の横浜市では「横浜健康経営認証」として、健康経営に取り組む企業に対し、その内容に応じA、AA、AAAというランク付けを含めた認証を行っています。

2018年に認証を受けた企業は全ランク合計で59事業所でしたが、2019年には191事業所となっており、健康経営に取り組む企業が急速に拡大していることがうかがわれます。

それでは、健康経営の定義、あるいは意義とは何でしょうか。

1.健康経営の意義

経済産業省では健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義しています。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながるとことを期待しています。

この裏には、少子高齢化の進展による社会保障の増大という、国にとって深刻な問題があります。「生涯現役を前提とした経済社会システムの再構築」とうたわれていることは、言い換えれば「健康で長期間働ける国民が増加すれば、それだけ社会保障を抑制できる」ということです。

そしてそのために「企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がること」が、経済産業省としての期待となっています。

一方、中小零細企業にとっても、経営者の皆様に共通の悩みであろう人手不足を考えれば、これは重要な課題になります。

新規に人材を採用することが困難であるということは、いかに現在の社員に長く働いてもらうことが大切かということにもなります。

熟練した職人が急に病気で休職したり退職すれば、たちまち操業が苦しくなるようなケースも、製造業ではありえるでしょう。それほど極端でなくても、長年勤務している社員であれば、単に業務に精通しているというだけでなく、企業に対する一定のロイヤリティも期待でき、生涯現役的に働いてもらうことに企業サイド・社員サイドともメリットがあります。

長く勤務をしてもらうために、企業が社員の健康に配慮を行っていく、それが健康経営の理想的な姿ということになります。更に言えば、「健康経営を推進し社員を大切にする会社」と認定されれば、「ブラック企業ではない」という証明にもなる訳で、求人でもメリットが生じる効果もあります。

2.実際の健康経営の進め方

横浜市の制度では、まず経営者が健康経営推進に対する意思を明確にすることが基本とされています。ついでそのための具体策(専門担当者設置、健康診断やストレスチェック、外部専門家活用、従業員の健康状態や生活状態の把握等)がどこまでできているかで、ランクを決めていくシステムとなっています。

ただ中小零細企業が健康経営を推進するのは、なかなか簡単ではありません。法定の健康診断ならともかく、ストレスチェックまで実施できるケースはレアでしょうし、産業医等の選定にしても同様でしょう。

ここでタバコを例にとってみましょう。肉体的な観点だけなら、本人のみならず他者への受動喫煙という面からも、タバコは吸わない方が健康であることは、医学的に見て間違いないでしょう。

しかし喫煙者にとっては、吸いたいタバコを吸えないのでは「精神的な不健康」になってしまうこともありえます。中小零細企業でも今どきほとんどの場合、職場内での喫煙など許されず、合間を見て外に出るなり喫煙所に行くなりして一服することが息抜きなのに、「健康経営の観点から当社は禁煙にする」などと言われては、モチベーション低下という結果になりかねません。

本当に認証を目指すならともかく、従業員の健康を経営者として維持するには、寧ろ基本的な施策を徹底する必要があります。

(1)働き方改革と組み合わせるなりで、社員にアピールすること

いきなり「健康経営に取り組む」などと社員に宣言しても、その背景を理解できなければ社員もとまどうことでしょう。

働き方改革が重要になっていることは社員も理解しているはずでもあり、繁忙期はともかくそれ以外の時期の有給休暇取得については、社長が積極的にリードするなど、従業員に休暇を取らせやすい雰囲気をつくっていくことは、健康経営でも有効になります。

(2)従業員に理解・共感を得られる施策を実施すること

タバコの例で言えば、非喫煙者である従業員にしてみれば「タバコを吸う人の方が休み時間が多い」という不満が蓄積しているケースもあります。

例えば1日に4回タバコを吸い、各5分とすれば20分。月に22日出勤と仮定すれば約7時間半で、決して少ない時間ではありません。一方で非喫煙者の従業員も休憩はとっている訳で、仮にこの1/2の休憩時間の差異が生じているとしましょう。そうであれば例えばですが、「非喫煙者は月に半日多く、有給休暇を付与する」という形にしても、喫煙者も納得せざるを得ません。

極力タバコを控えさせるための意識づけには、このように理解しやすい施策が求められます。

(3)できることから取り組むことで、姿勢を示していく

例えば社員の健康診断の結果は要配慮個人情報でもあり、中小零細企業の経営者の場合やたらに触れるものではないとも思われます。

それでも例えば「過去半年間オーバーワーク気味だった社員の場合」「健康診断の結果が大丈夫だったか、本人と話し合ってみる」だけでも、社員の健康状態の把握と合わせ、そういう方面にも気を使っていきたいという姿勢を表すことにもつながります。

全社的に取り組むことまでは、実際には難しくても、このようにできることから進めていくことが大切になります。

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