施政方針演説と中小企業支援策の方向性

中小企業診断士 佐藤 歓知

施政方針演説から中小企業政策を考える

2021年1月18日に召集された第204通常国会で、菅首相は初めての施政方針演説を行いました。その中では「安心」と「規模」という言葉をクローズアップし、大きく7つのテーマについて首相の想いを述べていました。その中で私が注目したいのは、「三 我が国の長年の課題に答えを」の中の(我が国企業の成長)で触れられた、以下の部分です。

我が国企業が、過去の成功体験にとらわれず、未開拓の分野に進出し、次の成長の担い手として中小企業、ベンチャー企業が育っていく。こうした環境を作り出すことも、長年の課題でした。 雇用の7割を支える中小企業を取り巻く状況は非常に厳しく、資金繰り支援を続けます。持続化補助金や手形払いの慣行の見直しを通じて、生産性の底上げを図り、賃金の上昇へとつなげます。さらに、中堅企業への成長、海外市場への挑戦を後押ししてまいります。
(首相官邸ホームページより)

ここで触れられている「中堅企業への成長、海外市場への挑戦」は、菅政権下で成長戦略会議のメンバーに就任したデービット・アトキンソン氏が様々な著書の中で説明していることであり、現政権の中小企業に対する方針が表れた部分だと思います。同氏は、日本は世界の中で競争力を持っているが、生産性が低いという点に注目し、中小企業への支援策を見直していくべきだとの立場をとっています。(2020年12月トピックス参照

令和2年度第3次補正予算を見る

施政方針演説を行った同日に、政府は、新型コロナウイルスの感染防止策や経済対策を実行する費用を盛り込んだ今年度の第3次補正予算案を国会に提出し、1月28日に第3次補正予算として成立しました。歳出規模は19兆1,761億円であり、その中には中小企業に対する支援策が多く盛り込まれています。従来の資金繰り支援、事業承継・事業引継ぎ推進事業などのほか、中小企業生産性革命推進事業の特別枠の改編として2,300億円、中小企業等事業再構築促進事業として1兆1,485億円が含まれています。

中小企業生産性革命推進事業の特別枠の改編は、令和2年度一次・二次補正で措置した特別枠を新特別枠(低感染リスク型ビジネス枠)に改編するものであり、新型コロナウイルス感染症が継続している中で、ウィズコロナ及びポストコロナの状況に対応したビジネスモデルへの転換に向けた中小企業等の取組を支援することを目的にしています。「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(ものづくり補助金)の4次締切分まで特別枠が設けられていました。今後は、低感染リスク型ビジネス枠に形式を変え、補助事業が拡充される予定です。

また、中小企業等事業再構築促進事業は、新型コロナウイルスの影響が長期化する中でウィズコロナ・ポストコロナの時代にシフトするために中小企業の新分野展開や業態転換等の事業再構築を支援する内容です。特に、中堅企業(本記事の執筆時点で中堅企業の定義は未定)という分類を取り上げている点、中堅企業に成長しようとする中小企業については補助上限を1億円に引き上げて重点的に支援を行う内容になっている点が特徴的であり、施政方針演説で表明された中小企業への対応方針とも合致したものとなっています。

事業再構築補助金について

令和2年度第3次補正予算に盛り込まれた中小企業等事業再構築促進事業から、事業再構築補助金について現時点で分かっている情報を紹介します。

本補助金の対象は、新分野展開や業態転換、事業・業種転換等の取組、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等を目指す、以下の三要件を全て満たす企業・団体等となっています。

  • 申請前の直近6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少している中小企業等
  • 事業計画を認定支援機関や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組む中小企業等
  • 補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加、又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加の達成

補助金額と補助率は以下のとおりです。中小企業の範囲は中小企業基本法と同様ですが、中堅企業の定義は未定であり、今後の公募要領等で提示される予定になっています。

補助額 補助率
中小
企業
通常枠 100万円~6,000万円 2/3
卒業枠(*1) 6,000万円超~1億円 2/3
中堅
企業
通常枠 100万円~8,000万円 1/2(4,000万円超は1/3)
グローバルV字回復枠(*2) 8,000万円超~1億円 1/2

*1 中小企業(卒業枠):400社限定。計画期間内に、①組織再編、②新規設備投資、③グローバル展開のいずれかにより、資本金又は従業員を増やし、中小企業から中堅企業へ成長する事業者向けの特別枠。
*2 中堅企業(グローバルV字回復枠):100社限定。以下の要件を全て満たす中堅企業向けの特別枠。
・直前6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前の同3か月の合計売上高と比較して、15%以上減少している中堅企業
・事業終了後3~5年で、付加価値額又は従業員一人当たり付加価値額の年率5.0%以上増加を達成すること
・グローバル展開を果たす事業であること

これから詳細が決まってきます。ホームページなどで公開される情報に注視していくようにしましょう。

さいごに

最近の中小企業政策は、企業の生産性を上げることを目的に実施されています。その中では様々な施策がとられ、効果を見ながら形を変えてきました。今回は、コロナへの対応とともに、企業を積極的に再構築していこうという方針が明確になったと感じています。我々診断士は、ウィズコロナ・ポストコロナの時代にシフトする中で、今まで以上に変化していく政策の方向性と業界の状況を確認しながら、経営者の皆様とともに会社を持続・発展させていく方策を考える必要があるのではないかと考えています。

なお、本記事は2021年1月30日に記載したものです。それ以降の発表により、内容が変更になる可能性がありますので、以下に記載の参考文献や公募要領などから最新の発表内容を確認するようにお願いします。

参考文献

1)首相官邸ホームページ
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0118shoshinhyomei.html

2)デービッド アトキンソン.日本企業の勝算.東洋経済新報社.2020.

3)経済産業省ホームページ
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/hosei/hosei3.html
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html

4)ものづくり補助事業公式ホームページ
https://portal.monodukuri-hojo.jp/index.html

5)中小企業基盤整備機構ホームページ
https://seisansei.smrj.go.jp/
https://seisansei.smrj.go.jp/pdf/news_210106.pdf

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