英語のススメ

小林 隆

Ⅰ プロローグ

企業にとってグローバリゼーションは避けられない命題となっているが、海外の顧客、ベンダ、現地法人等との意思疎通は、国際標準である英語で行われることが多い。

一方、日本人の英語力は、ある調査では世界53位とのことであり[1]、大学受験方法の是非はさておき、「読む、書く、聞く、話す」能力を高めることは、必須と考える。

そうは言っても、毎日仕事に追われる方々が時間を確保することはなかなか難しく、なるべく効率的に、かつ意欲が湧く方法を取る必要がある。

筆者は30年前、突然ワールドワイドの新規事業に放り込まれ、仕事の傍ら試行錯誤を繰り返してきた。以下、拙い経験を述べさせて頂くので、ご参考になれば幸いである。

Ⅱ 英会話教室

先ず、会社で夜間週二回開催する英会話教室に参加した。挨拶や自己紹介などの基本的な会話は覚えたはずであるが、明確には覚えてはいない。ただ、先生であるアメリカ人と面と向かって話したのは初めてであり、度胸はついた。

唯一、印象に残っているのが、私が初めて交渉相手のアメリカ人と話し、その晩の教室で先生に得意げに話した所、“ Really? It is unfair.”と言われたことである。 

後々考えると、「相手はnative speakerで私は初心者というhandicapを負っている。その条件でなされるdealは不公正だ」との意図と解釈した。「機会は平等に、競争は対等の条件で」という感性は、日本人よりも相当鋭敏なのだろうと思う。

Ⅲ 実践ビジネス英語

NHKラジオ第二、毎週水~金曜日の3回、各々15分の放送である。

この講座が素晴らしいのは、単なる英会話の習得に止まらず、アメリカのビジネス、社会、文化などの最新トレンドが紹介されることにある。私は語学そのものに対する興味というよりは、それを介して得られる海外の様々な情報に関心があり、それには絶好の機会である。

一度、講座を主催する杉田敏先生にお会いする機会があり、その旨、お話ししたところ、「それで結構です」とのお墨付きを頂いた。

最近の講座で秀逸と感じたのが、昨年11月放送の”Laptop Etiquette“。会議等でノートPCを開く人が増えているが、礼儀作法や手書きメモとの長短比較が、話題となっている。

なお、ラジオよりもinternet配信[2]の方が、好きな時間帯に学べるのでお勧めしたい。

Ⅳ 海外駐在

機会は限られるが、可能なら最低1ヶ月、現地で英語のみ話す生活を送るのが理想である。私の場合、日本語で考えて英語に訳すのでは無く、直接英語で考えたり、夢を見るようになる迄に、その位の期間を必要とした。

頭の中に英語の思考回路が新たに生成され、英語に接する時は、頭の別の部分が回っている感じがする。いわゆる英語脳ができたということか。それによって、英語力が1ステップ上がったな、と感じた。

Ⅴ 洋書

私が初めて手にしたのが、“Slugging it out in Japan”[3] (直訳すれば「日本でとことん戦う」)。読売巨人軍で活躍したウオーレン クロマテイ氏の著書である。同じ野球とはいえ、日米の文化の差は大きく、日本野球に適用しようとしてもがいた氏の苦闘が書かれている。

本書には、「(旧い後楽園球場は)ロッカールームの傍にトイレが無いので、シャワー室で用を足した」などの内幕が数多く紹介されている。但し、これらは単なる暴露話ではない。プロスポーツ選手として最も恵まれた巨人の選手の待遇がこの程度か?という思いがある様に思う。

“Straight from the gut”[4] (直訳すれば「心のおもむくままに」)。GEのCEOだったジャック ウエルチ氏の著書である。

功成り遂げた人の自叙伝ではあるが、失敗、内幕、本音などを包み隠さずに書いているところが魅力である。氏は官僚主義を嫌い、本音の勝負を大切にしていることが分かる。 

氏の業績を私なりに要約すると、①グローバリゼーションの推進 ②製造業と金融工学、サービス業の融合 と推察するが、①の過程で日本での採用経験に基づいた英語力に関する記載がある。「最初は候補者が英語を上手に話せたら概ね採用したが、暫くして英語力で篩にかける方法は上策では無いことに気がついた」。彼が重視するのは、コミットを守ろうとする責任感や事業に対する情熱であり、英語は対話を重ねれば習熟するが、その逆のパターンは少ない、ということではないか。

ちなみに、日本語版を読むという手もあるが、著者の真意や息使いを知ろうとすれば原文が勝ると思う。ピッタリした日本語訳が見つからない、日本語版では内容が一部カットされる、表題が日本人受けする様に変えられている 等が時々あるからである。

ところで、洋書は自分の興味のある人物や分野を選ぶのが望ましい。何故なら、予備知識があれば話の流れをある程度予測でき、飛ばし読みができるからである。

Ⅵ エピローグ

昨秋、神奈川県主催のラグビーワールドカップ通訳ボランテイア活動に参加した。

神奈川県に外国人観光客を取り込む、という狙いで、何組かを報国寺に案内するという成果もあったが、一番苦慮した問い掛けは、

「午前中からbeerを飲める所はどこかないか?」

「日本では、飲み屋は夕方からしか開かない。レストランで昼食と一緒に飲んだら?」

「beerとlunchは別腹。lunch前にbeerを飲むのがBritish style」とのこと。

今後、UK文化圏の方とお付き合いの機会があれば思い出して下さい。但し、飲む量半端ないですよ。


[1] EF EPI 英語能力指数2019年版
[2] https://www2.nhk.or.jp/gogaku/english/business2/
[3] Warren Cromartie with Robert Whiting, Kodansha international, 1991 
[4] Jack Welch with John A. Byrne , Warner Books, 2001

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