災害に強い工業団地をつくる ― 企業間連携による事業継続力の強化 ―
- 2026/11/1
- トピックス

中小企業診断士 望月 信宏
1.なぜ、工業団地に企業間連携が必要なのか
近年、台風や前線による豪雨など、風水害による被害が各地で発生し、企業の事業継続を脅かすリスクが高まっています。また、世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約2割が日本周辺で発生しているとされています。(*1)
こうした災害により、工業団地では複数の企業が同時に被災し、電力や道路などのインフラの寸断、資材の調達難、従業員の安否確認、取引先との連絡など、共通の課題に直面する可能性があります。
個々の企業による備えに加え、平常時から企業間で協力できる体制を整えておくことが重要です。資材や設備の融通、代替生産、復旧に向けた人員の応援など、単独では難しい対応が可能となり、地域全体の事業継続力の向上につながります。
2.「事業継続力強化計画」を活用する
事業継続力強化計画は、中小企業が自然災害などによる事業活動への影響を想定し、防災・減災に向けた事前対策を進めるための制度です。中小企業者等が策定した計画を経済産業大臣が認定するもので、中小企業にとって取り組みやすいBCP(事業継続計画)と位置付けられています。
計画には、取り組む目的、自然災害等による被害想定、災害発生時の初動対応、人的・物的・資金・情報面の対策、推進体制、訓練や見直しなどを盛り込みます。計画には、自社単独で取り組む「事業継続力強化計画」と、複数の事業者が連携する「連携事業継続力強化計画」があり、後者は企業間の情報共有や相互支援など、個社だけでは対応が難しい課題への備えにも活用できます。
認定事業者は、一定の要件のもとで、防災・減災設備への投資に対する税制措置、日本政策金融公庫の融資、信用保証の特例、一部補助金の加点措置などを活用できます。ただし、認定だけで自動的に適用されるものではなく、各制度の要件を満たす必要があります。工業団地や工業協同組合では、国の認定制度に加え、自治体や関係機関による共同施設整備などの支援策も確認し、地域の実情に応じて活用することが重要です。
中小企業庁の公表資料によると、2026年7月末時点の累計認定件数は、単独型が100,603件、連携型が1,988件で、合計102,591件です。連携型の認定件数は単独型に比べて少なく、企業間連携による事業継続力強化は、今後さらに活用が期待される分野といえます。
中小企業庁は、「連携事業継続力強化計画策定の手引き」を公開しています。(*2)
表1.「事業継続力強化計画」と「連携事業継続力強化計画」

出典:中小企業基盤整備機構「計画策定・申請のメリット」。中小企業庁「事業継続力強化計画」から筆者作成
表2.神奈川県協同組合等共同施設補助金(BCP枠)の概要

出典:神奈川県中小企業団体中央会「令和8年度 神奈川県協同組合等共同施設補助金の追加募集」から筆者作成
表3.工業団地で想定される共同設備

3.企業間連携による防災の実践事例
川崎市の「地域連携BCPガイドライン」では、個社で対応する課題と、企業間連携によって効果が期待できる課題を分け、後者について情報共有や相互支援の体制を構築する考え方を示しています。具体策として、災害物資の共同備蓄、非常用電源・通信手段の共有、被災状況や復旧見込みの共有、空き工場・設備の融通、復旧要員の派遣などを挙げています。(*3)
こうした地域連携の実践例として、川崎市高津区の下野毛工業協同組合の取り組みがあります。同組合では、2019年の台風19号による浸水被害を経験し、復旧に向けて企業間でスコップや排水ポンプなどの資材を融通し合ったことを契機に、地域連携BCPの取り組みを進めました。組合のポータルサイトには防災・BCPの機能を設け、平常時から復旧資材の保有状況を共有するとともに、災害時には初動にて被災状況の確認、組合独自の避難場所の提供、また必要な資材を発信し、組合事務局が貸し出す企業と必要とする企業をつなぐ仕組みを整えています。(*4)
この事例からは、災害時に必要な資材や設備を企業間で融通できるよう、平常時から情報を共有し、必要に応じて調整できる仕組みを整えておくことの重要性が分かります。
各社の事業内容や保有設備に応じて、代替生産や人員応援など実行可能な連携策を検討し、「連携事業継続力強化計画」に整理することが有効です。
4.連携事業継続力強化計画の策定と実践
連携型の計画を実効性のあるものにするには、参加企業の合意形成を図り、役割分担や対応手順を具体化するとともに、策定後も継続的に見直すことが重要です。川崎市の「地域連携BCPガイドライン」では、地域や団体の実情に応じた行動計画を作成するため、5段階の手順を示しています。
表4.地域連携BCP(行動計画)の策定の流れ

出典:川崎市地域連携による事業継続計画策定促進事業 地域連携BCPガイドライン
参加企業によって防災意識や人員、設備、資金などの状況は異なります。初めから多くの対策を盛り込むのではなく、情報共有や連絡体制の整備など、取り組みやすい対策から始めることが現実的です。
計画を形だけのものにしないためには、策定後の訓練や定期的な見直しを計画に組み込み、担当者や連絡先、資機材の保有状況などを更新していく必要があります。
5.専門家とともに進める事業継続力の強化
企業間連携による事業継続力の強化を進める際には、専門家の支援を活用することも有効です。中小企業診断士などの専門家は、各企業のリスク分析やBCP策定に加え、工業団地・工業協同組合全体で共通する課題の整理や、企業間の合意形成、役割分担の検討を支援します。また、行政、金融機関、保険会社、商工団体などと連携し、必要な支援制度の活用を後押しします。計画の策定後も、訓練や見直しを重ねながら、実効性のある取り組みへとつなげていくことが大切です。
出典:
(*1)内閣府 防災情報のページ
地震災害 : 防災情報のページ – 内閣府
(*2)連携事業継続力強化計画策定の手引き(PDF)
連携事業継続力強化計画策定の手引き
(*3)地域連携BCPガイドライン(PDF)
tiikirennkeibcpsakuteigaidorainn.pdf
(*4)中小企業基盤整備機構 BCPはじめの一歩事業継続力強化計画をつくろう。
BCPはじめの一歩 事業継続力強化計画をつくろう|中小企業基盤整備機構














